はいどうもこんにちは! またまたやってまいりました、犬と病理医、まさかここまで続くとは思わなかった第9回です。今回のゲストはなんとマンガ家のこしのりょう先生です。ご存じ看護師マンガの金字塔『Ns’あおい』の作者ですね。『週刊モーニング』で2004~2010年に連載され、全32巻完結。2006年にはフジテレビにて石原さとみさん主演でTVドラマ化されております。
そんなこしの先生、「やさしい医療のかたちTV」にご賛同いただき、メインイメージイラストを描いてくださっております。
そうしたご縁もあって、おそれ多くも犬と病理医が、「作家にとっての理想と現実」、「キャラクターとテーマってどっちを先に決めるの?」などなどをお聞きします。マジか。マジだった。本日も居酒屋の隣のボックスで聞き耳を立てる気分で、ごゆるりと読んでいってくださいませ。
参考:
第1回 診察室を広げたい! 犬と病理医、小手調べ
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/05/15/225842
第2回 『サプリ』とケア!? 犬と病理医、盛り上がる
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/05/20/120000
第3回 犬と病理医、チャットで文献が出せる仏に出会う(ほむほむ編・前編)
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/05/27/073000
第4回 ベーカー街のやさしい小児科医(ほむほむ編・後編)https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/05/29/073000
第5回 犬と病理医、脱線に付き合ってくれる外科医に出会う(けいゆう編・前編)
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/06/03/073000
第6回 医者を使い倒せ! コミュニケーションのアップデート(けいゆう編・後編)
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/06/05/073000
第7回 犬と病理医、医療情報の源流をたどる(医書出版社編・前編)
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/06/10/073000
第8回 八百屋の軒先で医療情報を売れ(医書出版社編・後編)
https://snsiryounokatachi.hatenablog.com/entry/2020/06/12/073000
■「プロフェッショナル」とは?
さてそろそろかな。
テストテスト
今度の日曜日にマーリンというのですね、昨年大爆死したFGOキャラのピックアップがありまして、盛大にガチャを回す予定なんですけども、ヘソクリを宛てておりましたところ、「冷泉家のクラウドファンディング」も登場したりして泣きながら財布をひっくり返すという謎の高揚感がありまして。
お、そろそろ時間ですね。
新しい始まり方だった
こんちは。今日に備えて『Ns'あおい』読み返しちゃった。全32巻。いい話なんだよこれが。
ぼくも『町医者ジャンボ!!』読み返してた。
『Ns’あおい』の最終巻(32巻)にこしの先生の「あとがき」があってさ、そこにね、「『あおい』をどう書いていこうか…」って悩みが綴られているんです。そこで「プロフェッショナル論」が語られていてさ。
うんうん。
「プロ」について……たとえばバスケットボール選手。
①シュートを入れて褒められたい
②シュートを入れた自分がカッコいい
③シュートを入れないと自分が気持ち悪い
「プロ」って③の意識が強い人のことを言うんじゃない? 「あおい」はそれでしょ、という話があってね。で、こしの先生が、「それなら自分も出来るかもしれない」と思うわけですよ。
うむうむ。
入りました。
お、こんばんはー。
やぁーこんばんはです。
■「元広告代理店勤務、紆余曲折をへて35歳くらいから漫画家」
【本日のお題】
『Ns'あおい』を描いていた頃の話(なぜ看護師マンガを描こうと思ったか、描いてて変化は等)
看護師という仕事についての印象
漫画家という仕事の醍醐味、いいところ、よくないところ
やさしい医療情報とこしの先生とのかかわり
このコロナ禍で何が変わったか?(医療情報もしくはご自身の仕事環境)
編集者のたらればです。本日はマンガ家のこしの先生をお呼びしてお送りします。よろしくお願いします。
毎度おなじみ病理医ヤンデルです。
本読んでてもらってありがたいです。
ウフフ。名作揃い。
まずはこしの先生、お手数ですが、2行くらいで自己紹介をお願いいたします。
漫画家こしのりょうです。
短い。しかしそれもカッコいい。
「漫画家」を名乗るためにどれだけみんながんばっていることか……。
元広告代理店勤務、30歳で漫画家目指しましたが、なかなかなれず、紆余曲折をへて35歳くらいから漫画家です。
おっいきなり色味が増した……。
■作家にとっての社会人経験
とはいえ、デビューしていきなり『モーニング』で連載開始ですよね?
『アフタヌーン』で新人賞が20歳くらい、それから通いつつづけて24歳で「ちばてつや賞」準大賞、その時の担当さんが35歳デビューの時に『モーニング』編集長というめぐりあわせですw
へーー、知りませんでした。『Ns'あおい』までめちゃくちゃキャリアが長かったんですね。。。
『Ns'あおい』32巻(最終巻)のあとがきに「新人にちょっと毛の生えた漫画家の連載でした」とあったので、「すげえ、いきなり『モーニング』で長期連載かーー」と思っておりました。
長いというか……描いてはいたのですが、ちょぼちょぼだし、売れないし……で、連載デビューまで時間がかかりました。でも、社会人経験はあってよかったと思います。
「毛の生えた」のニュアンスが分厚いなあ。『銀行渉外担当 竹中治夫』あたりは、社会人の味わう苦渋みたいなものがすごく多角的に描かれていて、医療マンガで有名なこしの先生とはちょっと違った魅力があってまたあれがいいんですよ。
竹中はサラリーマンやっていたので描きたかったですね。「渋み、苦み」みたいなところ。
分厚い話になってきたなー。
ああやはり。渋み、苦みがあるマンガってぼく大好きです。
結局、連載とか、漫画が掲載されてからのほうが圧倒的に力がつく感じです。
■医師は「病院の専門性」を背負う
漫画家は連載で育つっていいますよねえ。締め切りに育てられるというか。ヤンデル先生、医師はどうなんですか。
「医師は自分がいる病院の専門性を背負う」んですよ。
専門性を背負う?
そうですね。学生時代にやりたかった内容をそのまま極めていく人もいなくはないですが、実際には、自分がいる場所で、求められる仕事をしていくうちに、それが得意になるというパターンの方が多いかも知れません。
ふむふむ。
医者は生意気なので「最初からこの専門でいくつもりだった」みたいなことを言いますけどね。実際には場に育てられますね。
こしの先生は、なぜ漫画家になろうと思ったのでしょうか? 最初から「看護師のマンガが描きたかった」というわけではないんですよね?
それは……、漫画家も一緒ですね、雑誌(掲載誌)の色に染まっていく感はあります。好き嫌いも出ますし。
なるほど。
『フラジャイル』で、(岸先生やザッキーではない)先輩病理医の先生方が、学会で「なぜ病理医になったか?」という理由を語り合う場面でさ、それぞれ細かい事情はあるけど、気づいたらなってた、みたいなことを語り合うシーンがあるじゃないですか(6巻収録)。あの一連のシーンが、わたくし大好きなんですよね。
なんというか、もちろん目指し続けて獲得した地位…みたいなのもロマンなんだけど、気づいたらここに居ました、自分の居場所です、プライド? もちろんあるよ、葛藤? もちろんあったよ、みたいなのってのも、すごくカッコいいですよね。
それぼくが例示してもよかったのに忘れてたなあ。こしの先生がおっしゃってた内容に、それぶつけてたら神だったなあ。編集で神にしてもらおうかなあ。
(編集部注/そのまま出します)
■「(作家の)パッションと合う」とは?
ぶっちゃけ、追い詰められてて、何を描いてもつまんなかったのですが、『ブラックジャックによろしく』がはやりかけてて、編集長が「もう1本医療ものどう?」と。
えっ、そういう流れがあったんですか。
(自分の)奥さんがナースで、日々愚痴と、裏事情は聞いてて、これ、サラリーマンの組織と一緒じゃんて……。
すごいなーー、運命だなーー。それで「看護師を代表するマンガ」が生まれるのかあ…。そういえば『ちはやふる』の末次由紀先生も、最初は担当編集者から「百人一首もの、どうですか?」と提案されて始めたそうですよね。
なるほど。末次先生のパッションと合ったんですよねきっと。
パッションと合った! かっこいいな。
おお、そうか、「パッション」が作家の心の中にあって、それに「テーマ」が接続されたときに、作品が生まれるんですね。
業界物は「自分事」にできるかどうか?だと思ってます。
それは、読者にとってですか? それとも、作家にとっても、ということですか?
(いいな今日。なんかスムーズだ)
(わかる)
まず作家じゃないでしょうか。
「まず作家」! そうかぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
こしの先生にとって、あるときから「看護師とは」とか「医療とは」が、自分事になった、ということですか。(これはちょっと、若い作家志望の方は必見の回かもしれぬ)
奥様の話をただ聞くだけでは「他人事」だろうし、てっきり傍観者・観察者として描かれているのかと思った。
当時の話として、看護師のヒエラルキーが低いってことと、自分の平社員の立場がダブったところからですね。
ははぁー、まずは「社会人としての医療者論」だったのか!!
組織に対しての、不満と、願いとかなかなか届かないから、あおい、みたいな。
鳥肌とまんねぇな。
■「これは見られるとまずいやつ」
あぁ、、、なるほど、、、。ヒエラルキーの問題もそうなんですけど、『Ns'あおい』を読むまで、自分にとっては看護師さんって「看護師」という存在だったんですよね。ものすごくはしょった言い方をすると、「自分と同じ人間」というよりも手前に「看護師という特別な存在」である、という思い込みが強かった。
ほうなるほどなるほど?
看護師も医師も教師も、「理想像」があるじゃないですか。その「像」に、第三者も引っ張られるんですよね。
実は自分も(『Ns’あおい』を描くまでは看護師のことを)「医者のこまづかい」って考えてて。
わかるなあ、世の中の他者ぜんぶを深く理解できるわけじゃないですからね、どうしても先行するイメージみたいなものはある。無自覚にヒエラルキー的なものを設定していることも、ある……。
これ、かみさんに見られたらまずいやつw
まあぼくも両親に見られたくないツイートとかあるんで、大丈夫です。
私は先日、弊社の専務にTwitterアカウントがバレてることがわかりました。
専務……。
ゲラゲラ。
■虚像と実像の違いがわかったときに「伝えなきゃ」が生まれる
(画像:Adobe stock)
でも、看護師さんの役割が、わかってくると、「すげぇぇじゃん」ってなて、これを「伝えなきゃ」って。
はあ、そうか、虚像と実像の違いがわかったときに、「伝えなきゃ」が!
いつ頃から「これを伝えなきゃ」から自分事になったんでしょうか? 連載開始前? あと?
おっもしれぇ質問だなあー。
「伝えなきゃ」の時点ではおそらくまだ他人事ですよね。もちろん奥さまが看護師だったということですから、非常に近しい関係ですけれども、まだ「自分事」ではないような気が。
3巻くらいだったと思いますが、「患者を診ている時間が一番長いのは看護師さん」みたいなのが分かった時からでしょうか。
うぎゃあ医療の根幹ですね。
「医療って患者が主役だし」みたいな思いが出たんですよね。
「医療は患者が主役」、すごいなーー。それに気づいて「自分事」になるわけですね。
確実に「医師」と「看護師」の違いがわかったところあたりですね。ペースメーカー入れて、MRIやっちゃった。さくらさんのところとか印象深いです。
拙者、こういう「神(作家)」が「人(登場人物)」のことを語るの大好き侍でござる。
わかる。
こしの先生って、ご自身の経験を描かれるエッセイマンガとかで、「そんなにあけすけにご自身の葛藤を描いてしまってよいのか!」ってくらい葛藤を描かれてて、今までは「自分事を他人事のように描いているなあ」と思ってたんだけど、少し違った。「自分事」をこそ、がっちり描かれるタイプの方なんだな。
きみ、編集者みたいな分析をしますねえ。
専務めざそう。
■自分にとって漫画は「浄化」
基本、あおい以外は全部自分ですw
「あおい以外は」!
主人公以外は!!!
「あおい以外は全部自分です」!
自分の嫌なとことか、コンプレックスを、あおいに叩きなおされてる図w
そういうキャラクター造形があるんですねー!!
もう泣きそう。
だから、自分にとって漫画は「浄化」みたいなところがあって。
浄化ですか。
え、で、では「あおい」は誰なんですか? 看護師の理想像??
嫌なとこ、後悔なんかを成仏させてますwあおいはやっぱり「かみさん」が近いと思います。こういうと怒られるのですがw
ブラボー展開だ。
あー、なるほどなーーー。。。奥さまの気持ちもわかります。勝手に持ち上げられても、とも思うでしょうし。
■「主人公」は現実の組織にいたら嫌われる
「あおい」リアル病院にいたら、嫌われると思いますw
それはもちろん、『ブラック・ジャック』が実際近所に居たらめちゃくちゃ嫌われているのと同じだと思います(苦笑
奥様がんばって!
(『ドクターX』の)大門未知子もたぶん生活していけないだろうしなぁ。。。
なので、「理想」って抵抗あるんですよね。『町医者ジャンボ!!』もそうなんですが。
「抵抗」ですか。それは世の中にとって?
医療って、理想じゃないじゃないですか。
お。
医療は、理想ではないですねえ……。
「ベスト」ではなく「ベター」を目指す、ということでしょうか?
そう、だから、コンテンツがリテラシーをおかしくしてるのかもしれないという
(理想を描いた)コンテンツが、(世の中が医療に対して持っている)リテラシーをゆがめているかもしれない、ということでしょうか?
それはコンテンツが、、、、そうそうそれが聞きたかった。
ちょっとBJっぽいな。>それが聞きたかった
「必ず払います。何年たっても必ず。」
「助けて当たり前」という思考が医療を苦しめてるわけで。
■理想の現場と実際の職場、メリとハリ
『重版出来』というさ、マンガ雑誌の編集現場を描いた作品があるじゃないですか。
ほう、重版出来。
大変な名作なんですけども、知り合いのマンガ編集者に話を聞くと、「(あの作品で描かれる作家と編集者の関係は)理想郷だよ」というんですよね。実際の職場は、あの作品ほど理想的でドラマチックな現場ではない、と。
わたしの古巣の編集部は『働きマン』みたいな場所だったんですけども、確かに同じような感覚があって、そうかー、コンテンツに描かれる「現場」って、理想であり、メリハリがあって、もっというと「正解と失敗」がちゃんと存在するけど、実際の会社の職場って、はっきりした正解も失敗も、あんまりないよなあ、。。と。
なるほど、メリハリ。
あー突然「自分事」になりましたわそれ。
『フラジャイル』もメリハリすごいからおもしろい。
ヤンデル先生の「現場」はどうなんですか。読者としては「病理医の現場」っていえば完全に『フラジャイル』みたいな感じだと思っているんですけれども。
聞きたい。
モブがもうちょっと多いですね。
モブw
おお、なるほどなるほど。
■「医療」を描き、「患者」を描き、次は…「幡野さん」??
『町医者ジャンボ!!』の時は「患者メイン」で描いたんですよ。
ぼくはそれ、なんと、こしの先生から直接おうかがいして、それから読んだので感動がやばかったです。あれには「理想の医療」は(ある意味)出てきませんよね。優秀な医者がいるマンガなのに。
お、たしかに。
読みようによっては、「モブが輝く」マンガですらある……。
なるほどなーーー。ドラマを作るには「スーパースター」が居たほうが便利だし、実際に世の中にもマンガにもスターはいるんだけど、そうでなくてもドラマは起こっているし描けるということかあ。。
で、それ以降「病気」ではなく「患者」を診るコンテンツが主流になってきてはいますが、なんか今は「その次」のような気がしてて。
その次?
具体的には「幡野さん」
おっ……。
え?? 幡野広志さん??
これ、前回や前々回と比べて発言量は少なめなんですが(3/4くらい)、内容が重厚でしかも文脈に込められる情報量が多いから、いつもより「たっぷり」な感じがしております。いやー、ゲストによってテイストが変わるのはいい傾向だなあ…。というわけで次回に続きます。今回の最終盤で出てきた「次は幡野さん」とは何を意味するのか。「後編」ご期待ください。
構成・見出し たられば
後編はこちら↓