はい、今回もやってまいりました、犬と病理医、いよいよ第10回でございます。
前回(「前編」)よりマンガ家こしのりょう先生をゲストにお迎えしてお届けしておりますこの連載、当初は「やさしい医療のカタチTV」のメインイラストを描いてくださってありがとうございますー! という展開を予想していたんですが、途中から「マンガを描く上でのテーマとキャラクター」みたいな話になり…。
えー、今回も、居酒屋の隣のボックスで聞き耳を立てて聞いている気分でお楽しみください。
参考:
前回記事↓
snsiryounokatachi.hatenablog.com
■「その次」とは……「生き方」?
世の中の流行や、こしの先生が描きたいテーマが、「病気」を見るコンテンツから、「患者」を見るコンテンツに移行し、
「なんか今は【その次】な気がして」
と語るこしの先生。「その次」とは何か、と聞いてみると、「具体的には幡野さん」と。え、どういうことですか??
幡野さん的生き方なのかな。
彼の生き方……患者……ではあるかもしれないけど……ええと……父親……でもあるが……あと……ヒゲ……?(混乱)生き方!?
ww 生き方ですかね
「患者」という属性に限定しない、人間ひとりの「生き方」ということでしょうか。
幡野さん、まさに「生き方」なんですけども、それは幡野さんがはっきりと「死に方」について毎回言及しているから、浮彫になるかたちで読み手に響くんですよね。
ほう、それはわんちゃんがこないだ言ってた、生の延長にある死という考え方というやつかなあ。
snsiryounokatachi.hatenablog.com
「死」の受け止め方というか……西先生を呼びましょうか……。
西智弘先生( https://twitter.com/tonishi0610 )ですね。役者が出てくるなあ。
■「いずれ一所懸命考えるんだろうな…でも今じゃないよな」感
これ、糸井重里さんから聞いて、「うーーん、なるほどそうか」と思ったことなんですけども、幡野さんと話していると、なんとなく「先輩から話を聞いている」みたいな感じになるんですよね。実際の年齢関係なく。
ほう、先輩から。糸井さんが!?
そうそう。71歳の糸井さんもそう感じるんだって。
あ、それですよね、でも、かなり難しいですよね感情的には。
へえ。
それはなんでかっていうと、(ここからはわたしの考えなんですが)たいていの人は、人生のどこかで「死に方について、いずれ寿命が尽きる前に自分も一所懸命考えることになるんだろうなあ…」とぼんやり考えていて、で、それを幡野さんが先に考えつくしている気がするからじゃないかと思うんですよ。
うんうん。なるほどね。
やっぱり、真剣には考えないかもと思います。当時者にならないと……。
「死ぬまで生きることの当事者」として、こしの先生が真っ先に思い浮かべる方が、幡野さんなんですね……。
まだこれうまく言語化できてないんですけども、「死に方→生き方について、これまでぼんやりとしか考えてこなかった自分への後ろめたさ」みたいなものが読み手にはあって、それが幡野さんの文章に、より迫力を持たせているんじゃないかなあ、と思うんです。
「自分事」でそれをやれるってのがすげぇな。
作家の仕事だよねえ。
「病気」から「患者」へ、そして「生きて死ぬ人」へと、こしの先生のフォーカスが少しずつ移っていってるんですね……。
これまた編集者っぽい見方だ。
■「羨ましい生き方」だけど、マンガのキャラクターには難しい
(取材で)がんサバイバーの方にもお会いするのですが、幡野さんほどはっきりものをいう方も珍しいからかもしれません。あと、年齢的に、自分の終末についてもちょっと考えているせいかも。うらやましい生き方なのかもと。
「幡野さんみたいな考え方や身の振りようができるようになりたい」というのは非常によくわかります。
個人的にいろいろ嫌なものも断ち切れずにいる男の羨望w
……それを、マンガに、されるんですか?
お。なるほど。どうなんでしょうか?
ここ、まじめにマンガにしたいと思っているのですが、
おっ。
しかし、マンガで幡野さんをそのまま描けばきっと面白いですが、そのいっぽうで「幡野さん的なキャラクター」になると説教臭くなる気がして。
なるほどなあ…テーマやキャラクターって、そうやって構築していくんですね。。勉強になるなあ。
あとは、伝えることをもっと自分の中で明確にしないと、描けないんですよね。私、幡野さんじゃないので……。
「自分事化」へのプロセスを今ぼくは見てるんだなあ。
『Ns'あおい』はご自身の中で明確に「伝えたいもの」があったわけですか。
あ、(『Ns’あおい』を描く際)最初は「ヒエラルキーへの怒りと憤り」でした。
あー、なるほど、組織と個人の軋轢だったり、理想と現実のギャップだったり、医師と看護師のヒエラルキーだったり。それらへの怒りがこしの先生の中にあったわけですね。
読者にテーマが伝わればいいので、方法はある気がしてるのですが……。ファンタジーとかSFとかでも。
ファンタジー。SF。こしの先生の言葉はいつも方法論とか様式とエモーションとがセットで出てきて脳がギュンギュン回るな
■作者は、自分の作った作品に照らし返されるかたちで自分を知る
少し話はずれるのですが、こしの先生が考える、マンガ家という仕事の醍醐味、やっててよかった、という思い、みたいなものはどんなときに感じますか?
さっきも、ちょっと触れたのですが、「浄化」みたいなことで、物語を作っていくうちに想定してた内容よりもちょっと踏み込んで「自分ってこんなことを考えていたんだ」みたいなのが分かった時ですかね。
おお。
すごいなあ。
もちろん、いい評価やたくさん売れるも楽しいのですがw
作品が作者を照らし返す、みたいな話だ。
「作品が作者を照らし返す」。
■「テーマ」は「キャラクター」の中にすべて入っている
もう一点、「キャラクター」と「テーマ」だったら、こしの先生の場合はテーマのほうを先に考える、ということでしょうか?
テーマはキャラクターがすべて持っているもんだと思っています。
(うおおお、、、今回これ、こしの先生の各フレーズに含蓄がありすぎて、うまくまとめられる自信がないぞ。。。。)
(そのまんま出せばぼくなら感動して感動して終わるぞ。)
(な、なるほどたしかに。)
テーマはキャラクターに入っている、内包されてる感じです。
テーマはキャラクターに入っている!
すげえ。。。。分けて考えちゃダメなんですね。。
「あおい」は看護師が法的には許されない挿管のシーンから、「ジャンボ」はつぶれそうな診療所からはじまります。それぞれ、行く末がなんとなく想像できますよね。これがテーマです。
なるほどなあ。キャラクターにテーマが入っている。
うわーなるほどなーー。。。設定とシーンがすでにテーマを内包していて、キャラクターはそれに沿って振る舞うことで、ストーリーが進むと。。。すごい、、これお金払って受ける授業なんじゃないの。。。
『フラジャイル』の岸先生も『ブラよろ』の斉藤君も、『ちはやふる』も!!w
言われてみると、『鬼滅の刃』の炭治郎も、『ワールドトリガー』の三雲修くんも、おかれた状況がすでにテーマとキャラクター性を内包していますね。。。なるほどなあ。。。
なので、次に描くマンガも冒頭ができれば描けそうな気がしてるのですが……。
だからこそ第一話が重要なのですね。
(画像:Adobe stock)
■最初に会ったのはヤンデル先生?
ここが、なかなか……。あれ? 自分の話ばかりになっててすみません……。
そもそも、こしの先生にそういうお話をおうかがいしたかったのですよ。
そうそう、こしの先生の話を聞く回なので、それはオッケーです。
なんか、こういう話聞いてると「やさしい医療の世界」とか「医療情報」とかっていう概念自体を考え直してしまうなあ。
いい繋ぎですヤンデル先生。こしの先生と「やさしい医療情報」とのかかわりを伺えますか?
「医療マンガ大賞」の流れからでしたっけ?
参考(2019年9~11月実施)
そうですね。あとは、コミチが全面協力していますので、そこからもお声がけいただいております。
最初に知り合ったのは、大塚(篤司)先生ですか? ヤンデル先生が先?
たしか、ヤンデル先生に渋谷のイベントでお会いして。
参考(2019年9月)
そうですね! 渋谷だ。また渋谷。
あ、渋谷かーー。ヒカリエ! あのイベント、つくづくやってよかったねえ。。。
あのイベントほんとうに大切だったんですよ。大塚は海外出張行ってて不在で、あそこに出られなかったのをすごい悔しがってた。……その節はありがとうございました。
■よく見ると登壇者がみんな入っている
あと、SNSのやつ。シャープさんと鴨さんとたらればさん。
おお、SNSアカウントナイト。なつかしい。
参考(2019年3月)
SNSアカウントナイトで客席にいらっしゃったこしの先生とご挨拶した際に、『町医者ジャンボ!!』をご推薦頂きました。そのあとめちゃくちゃ読んでハマって、急遽、「ヨンデル選書」に並べた記憶が。
参考(2018年12月~2019年5月 ヨンデル選書フェア第1期)ikebukuro.books-sanseido.co.jp
そのあと、伝説の札幌!!
参考(2019年8月)http:// https://keiyouwhite.com/sns3
去年の話かあ。まだ1年たってないんですねえ。
札幌では最前列で聞いていただき。先生の自作のイメージをこっそりおうかがいし。ウフフ。
ご縁だなあ。そして「やさしい医療のかたちTV」のメインイメージイラストを描いていただいたと。
LINEスタンプも早めに仕上げたいです。
これさ、(「やさしい」の文字の中に)全員ちゃんと入ってるんですよね。わたしも描き入れてもらってて、うれしいです。
財産だよねー。
そう、公表していませんが、(8/23当日の)登壇者の方、皆さんいれたつもり。
■「やさしい医療」は「やさしくない情報」をどう伝えるか
ヤンデル先生、この話をぜひ。>「やさしい医療の世界」とか「医療情報」とかっていう概念自体を考え直してしまうなあ。
ききたい!!
わかりました。ちょっとだけ長く書きますね。
どうぞどうぞ。
こしの先生のお話をうかがってたら、患者にとっての「やさしい医療」って、つまりは「理想の医療」だなーと思ったんですよ。
ふむ。
でも、医療をはしからはしまで俯瞰すると、患者にとって「やさしくない瞬間」って必ずありますよね。
おお! ここが「理想」か!
我々医療者が医療情報を説明するとき、「やさしく説明したいです。」と言った場合には、「聞いている一般市民が笑顔になるくらいやさしい説明をしたいです」となりがちなんですけど。
たしかに。
けど、ほんとうは、「聞いている一般市民が涙を流すほどつらい情報であっても、易しく、優しく」伝えなきゃいけないんだろうなあ……ということをね。理想ではない現実に対しても、やさしくなきゃいけない。
ぼくはこれまで、何かを語る際に、「コンテンツ」を選んできました。生老病死でいうと、「一般市民に対して語りやすい病」だけを選んで語ってきました。これだと、実は、医療を「やさしく」を語ることはそんなに難しくないです。
けどねえ……こしの先生は、もっと広く、医療を見ているなあ……医療の物語をはしからはしまでご覧になろうとしているなあ……と……。それが、ぼくが先ほど「『やさしい医療の世界』とか『医療情報』とかっていう概念自体を考え直してしまうなあ」とつぶやいたワケです。
「やさしくない瞬間」も描いているということね。なるほどなあ。
ヾ(๑╹◡╹)ノ" おわりです(テレマーク)。
これさ、きみと佐渡島さんが対談した時に出てきた話ですよね。「医者は、【あなたは、この病気でどうかはわからないけど、いつか必ず死にます】って患者に伝えられるのか。伝えづらいとしたら、その躊躇や隠し事を患者は見抜いているんじゃないか」というような話。
(医療の「端から端まで」が)広すぎて描けなくなってるのかも。
そりゃあ描けませんよ。ふつうは。でも、佐渡島さんみたいに、そこを見抜いてくる読み手もいる……。
なるほどなあ。。。。「やさしい医療情報は、【やさしくない医療情報】をどう伝えるか」という話かあ。。
■「物語」という手法で伝える
なんかねえ、こしの先生がですねえ、「病気をみる→患者をみる→その先(幡野さんとか)」とおっしゃったところで、ぼくは「アアッ」と思ったんですよ。
それはさ、こしの先生の話を伺って、ヒントらしきものを掴んだとしたら、「物語」という手法を使ったほうがいい、という話なのかもしれませんね。 たとえば「宗教」は、「死」を伝えるのに「物語」を使いますよね。そういう手法があるんじゃないか。
ほんっとにそうですね。
これは飛鷹和尚の守備範囲になってきたなあ。
そうなんですよね……。宗教と医療とエンタメをごちゃまぜにしたい感じ。
おっ、「アイディア」だ……
■デジタル化で「タッチは変わらないが線は変わる」
すみません長くなって。最後のお題です。このコロナ禍で、何か生活環境や医療情報、仕事にまつわることで変化はありましたか?>>こしの先生
私、スタッフがリモートになったので、作画を完全デジタルにしました。1か月の苦闘。
おお。そういう作家さん多いみたいですね。デジタル移行で絵のタッチはかなり変わりましたか?
作画がかわるんだ、それ知らなかったなあ。
新人気分でやってました。慣れてないのでちょっと変わるかもしれません。タッチは変わらないですが「線」は変わりますね……。
タッチは変わらないが線は変わる! おおー。
あとは自分を考える時間が多かったんですけど、一人で仕事してるとネガティブな感情が強く出てくるの自分に唖然としてました。人と話すの大事…。
ひとりで仕事してるとネガティブになるの、わかります。。。。わたしもそうです。なのでSNSを見てしまうという。
SNSを見ると、ほかの人の漫画見て嫉妬してしまうので、作画中は閉じてましたw
嫉妬。なるほど。
ひさびさ紙にペンで描くとめちゃ気持ちよかったです。もうアナログには戻れませんが…。
プロのクリエイターは、皆さん嫉妬についておっしゃいますよね。それを燃料にして、もう本当に、何時間も自分と向き合うという。おそろしい。。。いったんフルデジタルに移行すると、もう戻れませんか。
戻れないことないですが、デジタルは作業時間的にやりとりのストレスが少なくなるのと、発展性は感じています。すぐカラーが描けますし。
おお、カラー。そうですかあ。
Webはカラーが普通なので、そこは合わせていかないと。
デジタル技術が「やりとりのストレスを減らす」っていう観点、面白いですねー。つくづく「IT革命」って、コミュニケーションの革命なんだなあ。
どんどんツールを変えてます。
すごいな。衝突によって変化するんだ。
や、衝突しないと変化しないのかもw
■「(コロナ禍で)患者数は激減です」
そろそろ締めますが、大丈夫ですか? まだなにか面白いこと言い忘れてないですか?
あ、ひとつ質問が。 ヤンデル先生の病院のことって聞いても大丈夫ですか?
おっ、どうぞどうぞ。
コロナで患者数が激減して売上が下がった病院があって、それで医療者の給料カットみたいな感じになっていると聞いたのですが、先生の病院はコロナの時はどうでしたか?
科によりますが、トータルで見ると患者数は激減です。入院患者数も、ざっくりと言えば平時の「○割減」くらいまでいきました。なので、いずこからかの保証がなければ普通に経営が終わるレベルです。
まじか。○割減ってえらいこっちゃだ…。
給料についてはまだわかりません。なにせまだ収束してませんからね……。 いまのところ、増えることはないです。
あ、あ、そうなっちゃうんですよね…。そっちのほうも(新型コロナウイルス感染症患者への対応と合わせて)大変じゃないかと思ってて。
現代の伝染病は、みんなが病院に行かなくなる、という弊害も生むってことかー。。
まあでも大変なのはみんな一緒ですのでね。
この連載で以前ヤンデル先生が言っていた、「このコロナ禍で、病院と町の人々とのつながりが、切れる」というのは、そういう実情があってのことだったのですね。
snsiryounokatachi.hatenablog.com
そうです。病院に行くこと自体が「リスク」でしたからね。急がない医療は延期されたのです。
医療者の感染もですが、そちらもボディブローのようにきいてきそう。
いやあ、最後の質問もしっかり面白かったです。
こしの先生、取材力も高いですね……。
それでは本日はここいらで。
はい、ありがとうございました! おもしろかったです。とても。
ありがとうございました。大変楽しかったです
ありがとうございました!
ではでは、また是非。
またぜひ! 今度は食事でもしながら!! 本日は長々とありがとうございましたーーー!!
いやあ…「看護師マンガの金字塔」を描いたマンガ家をお招きしての犬と病理医、いつになく両名が浮足立っていたのが面白かったです。特に「テーマはキャラクターの中にすべて入っている」ってすごくないですか。思わずメモってしまいました。 そんなわけで、おかげさまでこの連載、なかなか好評なようで、まだ続きます。次回のゲストは、皆さまご存じのあの中の人です。しっちゃかめっちゃかになるぞたぶん。よろしく。
構成・見出し たられば