15回にわたってお送りしてきた「犬と病理医」シリーズ、ついに最終回です。
2020年8月23日(水)に実施されるオンラインイベント「やさしい医療のカタチTV」を紹介し、登壇するゲストの皆さんの考えや人となりを見せていくこのチャット対談、「なぜ始めたか」といえばまあ「いきなり原稿が出来るからすげえ楽」という理由が一番手前にくるのですが、そのわりにはインターネットの片隅でわりと人気を博しておりまして、そうした企画の総括をお届けします。
「前編」では最初のゲスト「ほむほむ先生」、2人め「けいゆう先生」までを振り返り、今回の「後編」では怒涛の「医書出版回」、「こしのりょう先生回」、「SHARPさん回」について犬と病理医が語ります。
参考「前編」↓
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■「だまされているのかもしれない、いたいけだから」
さて医書出版回。
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営業さんと編集さん、優秀だったなあ。。。
はい、あの回がまたよかったですね。
業界を代表して話さなきゃならないから、そもそも優秀でないと出来ないだろうし、「優秀っぽいこと」しか言えないんだろうけど、それでも見事に代表らしく振る舞い続けた感じですよね。あれが業界平均水準だとしたら、ほかの出版社は困るだろうなあ。。上位5%くらいであってほしい。
ちょっと雑なこと言いますけどね、
ほうほう。
その……医療系に限らないんですけれど出版社の方々で、ぼくらと会う人達って、みんなぼくより高学歴で……。ドチャクソ優秀な人にしか会わないんですよね……。
え、、、いや、あの、、わたしが言うのもなんですが、それは会社や人によるのでは、、、。?
わかりません、だまされているのかもしれない、いたいけだから。
いたいけ。
でもアホな人に会ったことがない……。
あーーーー(膝を叩く)。そ、そうです、そのとおりです。みんなゆうしゅうです。
( ・ㅂ・) (意図を読んでいる)
ちょうぜつかしこい人たちばかりなので、せんせいはぜひ、これからも編集者から「これを書いて」と言われたことを書いててください!
( ・ㅂ・)و (深入りしない)
( ・ㅂ・) (エへへ)
■真夜中に電話できる唯一の異性の友達ポジション
で、なんでしょうね、学歴なんてどうでもいいんですが、出版関係の方って、我々医療人にくらべて、
ふむ。
社会という海で生きていくときの深度が多彩というか……海面から1メートルくらいのところからマリアナ海溝の中腹くらいまで上下して泳ぐクジラみたいに見えることがある。
なるほど……。ええと、これはあまり書かないほうがいいかもしれないことなんですが、
おっ書け書け。
編集者という人種は、基本的に「特定の専門職」を持ち上げるのが得意なんですよね。
お…? それは……「センセイ」のことかな……?
基本的に、出版社は「本」という媒体の権威を借りれるじゃないですか。で、その権威は専門知識を持つ人であればあるほど効くわけです。そうした権威を持ったうえで、相手の下に入り込んで持ち上げることができる。
ははあなるほど。
あともうひとつ大きいのはさ、「書く」というアクションって、めちゃくちゃ孤独でしょう。その孤独に寄り添い続けられるわけですよね、編集者は。これは大きいですよ。真夜中に電話できる唯一の異性の友達、みたいなポジションですから。
書くことは孤独なのかあ。
全裸どころか脳ミソの中身ですしねえ…。
寄り添い続けられる人はやはり優秀だなあ。
そうですね。書き手の孤独に付き合い続けられる人は、やっぱり優秀だと思います。
SNSは孤独を可視化するツールだと誰かが言ってましたが、SNSができる前から出版業界、特に編集者なんてのは孤独を察知してそこに向き合ってきたわけですね。
世の中の編集者はもっとSNSを頻繁にやればいいと思うんですけども、会社の看板を背負ってやってきたことが、じゃあその看板を外したときにどうなるのか、というと、また別の問題があるんだろうなあとは思います。
カンバン、孤独。
■ポッドキャスト「いんよう」の話
きみとよう先輩のポッドキャストが面白いのはさ、
おっそっち行くのか。
あれ、医者でも生命科学者でもなくて、というか、医者でも生命科学者でもあるんだけど、それよりも「オタクな先輩」と「ライトオタクな後輩」だからだと思うんですよね。看板をおろして、別の看板で喋ってる。
そうですね、ぼくはその構造に最初気づいてなかった。
そうなんですか。
よう先輩という人は大学院時代にはそこまでオタクじゃなかったんですよ。心根はともかく。
へーー、そうなのか。、。。筋金入りに見えるけれども。あと、あのしっとりしたBGMがいいです。
最後森に帰っていく感じなのがいいですよね。
ムーミン谷っぽさがありますよ。
先ほど、國松先生という人をぼくは「自分の上位互換だ」と言いましたが、ぼくがこれを使うときは基本的に「追いつきたい」というときです。で、よう先輩はぼくの上位互換なんですよね。
なるほど。
ただ、久々に再会してみたら、ぼくがかつて知っていた先輩のキャラのほかに、ひとつ増えていた。オタクというスキルが。
國松先生はなんとなくわかるんだけど、よう先輩はきみとは目指す方向が違うと思っていたんだけど、、、、、そうかー、あの方向性は、無理だよねえ。。。
「まんがキララ文脈」って、無限の深さを感じますよ。
参考:「まんがキララ文脈」とは
今かんがえてたこと全部ふっとんだけどそういうことです。
沼の深さがちょっと計り知れない。
彼はいつか主人公になってマンガ化されないかなとひそかに思ってるんですけどね。
え、オタクな生命科学者として、ということですか?
『動物のお医者さん』的なスタイルで彼の日常を描くマンガがあったら読みますね。
それはほのぼのしていて面白そうだなあーー。。
大変だろうなあ笑
■「キャラクター」について考えてきた時間が桁違い
「そういうマンガ」を描くタイプの作家ではないけど、こしの先生回の話を。
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(チャットしてる時に)タイピングにタイムラグがあってちょっとだけ心配してたんですが、すごかった。
こしの先生のチャット、ひとつひとつがフキダシの中に浮き上がるようでした。
なんというか、「剣豪に斬られるときに、相手の動きがゆっくりに見えるんだけど、自分のほうはもっとゆっくりで、結果的に避けられずに真っ二つになる」みたいなチャットでした。
おもしろい表現だなあ。
我ながらなんだこの例は。伝わるのか。
ゾーンに入っても勝てないんだ。
たぶんさ、「キャラクターとはなんぞや」と、考えてきた時間と深度がわたしたちとはけた違いなんだよね。
「創造」で食ってくってこういうことなんだなーと思いました。
「その位置は我々マンガ家が2000年前に通り過ぎたところだ」みたいな。
あの回でおもしろいなーと思ったのは、あなたがね、こしの先生の言葉にただ斬られているところ。
ただ斬られてましたよ。真っ二つですよ。きれいに。
「ああその表現は聞いたことがあるなあ」というのが、「ない」ということ。これがやばい。
椿三十郎みたいになってました。
斬られる方をお願いします。
モブしか浮かばない。。。。
とりあえずぼくでいいか。
■多弁を捨てて内面を言葉にしたチャット
これは今回の一連のチャット対談全般に言えることかもしれないんですが、すごくラッキーだったのは、皆さん、「ずっと考えていたこと」を、惜しげもなく披露してくれたんですよね。
たしかに……。飲み会だと3次会くらいでようやく出てくる会話だったような気もします。
たぶんこれは「チャット」という独特な雰囲気がよかったんだと思います。「話したこと」はあるし、「文章化したこと」もあったかもしれないけど、「こういう独特な雰囲気で書いたこと」はなかった、みたいな。
ぼくの話をしますと、このチャットでの対談収録時、2回に1回はいったん入力した内容を消して(書き直して)るんですけどね。
それは消しすぎではw
これ、一度自分の口から出た無加工な言葉をみて、「ちがうな」と思って消して、また書き直して、そうこうしているうちにほかの2人が話を先にすすめて、ということで進んでいく。
それはおもしろいなー。
ほかの人がどうだったかわかんないんですけどぼく、普段の多弁を捨てて一段自分の深い部分にある言葉をえらぶようなチャットだったんですよ。それは入力したものを「見てから送信」というシステムによるものだったかもしれない。
そして一度消して書き直して「セイロンティー」か。
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あれはスッと出ました。
おもしろかったです。
いろいろいいたいことがあったけどウッス。
■「思考」がすでに言葉になっていて、研ぎ澄まされている
さあそしてSHARPさん回です。
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すごかった。普段やりとりしてるのに。あんなに賢いんかとびびった。
伏線回収の回だ。
あんまり相槌うちすぎて、セガさんを出したことしか覚えてないくらいでした。
ぼくはあの回はなんかわからんけど、自分をアピールしたかったのか、妙にしゃべりすぎてて記事ではセリフいくつか消した。
ほむほむ先生が提起したキャラクターの話を、あんなに見事に回収してくれたの、すごいですよねえ。。。それで、それ(きみがやり取りを消したの)を見て気づいたんだけどね、
ほむほむ?(あいづち)
SHARPさん以外のゲストの時だと、必要なんですよね、脱線やり取りとか相槌とかギャグとか合いの手とかが。そうしないと、発言が出てこない。いわゆる「ワイガヤ」があったほうがスムーズに話せる。
おっ……。
だけどSHARPさんの場合は、たぶんすでに思考が言葉になっていて、かなり研ぎ澄まされているという。だからぼくらのワイガヤが、いつもより邪魔に感じちゃうんじゃないかな。
なるほどなあ。フワちゃん(芸能人)もそういう感じなんですよ。
ほほう。フワちゃん。あのYoutuberの。
そうです。フレーズがきちんと完結していて、「言い終わるときちんと句点を打てる」。明石家さんまの番組にフワちゃんが出てきても、「さんまの顔のアップと引き笑い」を必要としないでオチがつく。そんなのってフワちゃんくらいだと思います。
あーーそうか、テレビのバラエティ番組だと「ひとりで引き受けるケース」がなく、「やり取りで笑わせる」だけど、Youtubeで鍛えられると、「ひとりで句読点を打てないといけない」ということかーーー。
ただ……SHARPもフワちゃんもなんだけど、それは後に続く人を振り落とそうとしているわけではなくて、むしろ、視聴者の側に「そこを起点として思考するだけの素材をまるっと与えている」。
だからぼくのあいづちが邪魔でいくつか切ったんですよね。
共演する芸人(我々)が大変なんですね(苦笑
エキストラでーす。
アシスタントでーす。
次はかわいい子犬ちゃんが登場します。
こ、、、子犬!!??
(8歳)
ワンワン!(抗議
■膨らませる役とまとめる役
そういえば先日大塚に言われたんですけどね、
はい。
「ヤンデルはアイディアを膨らませるだけ膨らませてまとめてくれない」って笑いながら言うから、
ほほう。
「大塚がきちんと句点を打つからぼくはそっちの仕事をしなくていいと思うんだよ」って言ってやったんですよ。
言ってやりましたか。
もうこれ……武勇伝ですね。
いいね、役割分担として。そういう編集者、たくさんいます。めちゃくちゃ話を大きくして、途中で取りまとめ役に任せちゃうの。
役割を分担できるようになったのもTwitterのおかげです。
そういう編集者、だいたい2億円くらい会社に損失を出しますが、でもかかわったひとはわりとみんな幸せになります(笑
やけに具体的だなあ
いま具体的に顔が浮かんでい…、、えー、時を戻そう。
悪くないだろう。
■Twitterで愛されている大塚先生
大塚先生は、なんだかTwitter上の反応がすごくいいんですね。
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おっそうですか。そうですね。たしかにな。
愛されてるなーと。
このチャットの収録をしている前日に前編が公開され、明日が後編公開ですね。
あと、大塚先生は、最初の出会いの距離感を気にしていたのが抜群に面白かったです。
きみはそういうとこしっかり拾っていくね。
いやあだってさ、面白いじゃないですか。わたしとの出会いでコミュニケーションエラーがあったかもしれない…って、素材として最高ですよ。ナイスボール!!と思いましたもの。
彼もまた、葛藤を表示することにしたのかなあ、と思いました。ひとりでやっていたときはそうではなかったのだと思う。
あー、、、なるほどなーーー、、そうか、みんなそれぞれ、最初はひとりでやってたんですよね。
AERAの大塚先生の連載も、「昔はこう考えていたけれど、今は……」という切り口が選ばれていることがある。
だからこそコミュニケーションで悩むのかあ。。。おもしろいなーー。
「医者も悩むんだ」というのを出すことにしたんですね。そういう腹のくくり方を選んだ。
(画像: Adobe stock)
■「悩む姿」を目の前の仕事相手に見せることは是か非か
それさ、けいゆう先生の回で少しだけ話題になったことだけど、これまでの医者は、あんまり悩めなかったわけですよね。少なくとも非医療者の前で「悩んでいる姿」を出すことに、全般的にすごい抵抗があった。
それはたぶん、悩む医者は患者にとって頼りないだろうと思われていたからですね。「がんが治ります!」というウソのほうが、メンタル的には寄りかかりやすい。
そうかーー、たしかに。
でも……医療の複雑さや、ナラティブ(物語)が複数走っているという感覚を、医療者と患者と共有したほうが、長い目でみると良好なコミュニケーションになる……と思う。
なるほどなるほどすごくおもしろいぞ。
「悩んでいる姿」を出すのはたいへんですよ。できれば出したくはない。誤解されやすいだろうし。
そうでしょうね。。。編集者だってたとえば新人作家から相談されたら「悩む姿は見せられないな」と思うのに、医者の場合は命がかかってるし。。。
編集者が「作家の目の前で迷う姿」を出すことが、作家のためになる、みたいなシーンは思い浮かびますか?
あーーーうーーん、、、、、、すごく抵抗ありますね。。。「弱い」と見なされそうで。。。
なるほど。
「そのあとのコミュニケーションが取りづらくなるな」と思っちゃいますよね。位置関係が変わっちゃうな、とか。
それは医者にも共通する感覚なのだと思います。そして、そこで成り立ってきたコミュニケーションも多くあった。
でも、ちゃんと関係性を築けていれば出来るんですよね。編集者と作家も、医師と患者も。いま思い出したのがまさに、けいゆう先生がいっていた、「さらけ出したほうが、結局お互い得だし楽」という。
なるほどなあ。
(画像: Adobe stock)
■なにか理由をつけて「あの人」を呼びましょう
いやー、なんだろう、全般的に勉強になった。このチャット鼎談方式も含めて。これ中身とゲストを変えればまたできますね。
あなたが再三再四、「このチャット方式」に何かを見出していらっしゃるのがとてもよかったです。
見出しまくりですよ。フレッシュな大学生のようです。やってて楽しかったですからねえ。
もう時間もあれなんですが、参考までに、「チャットが3名であったこと」は、どうでしたか?
すごくよかったですよね。3人(犬+病理医+ゲスト)でやったの。新たなやり方が見つかった感があります。インタビューの新しいかたちとして多方面に提案したいくらい。特に「向き合わない感じ」がいい。これ、読者もかなりストレスが少ないんじゃないかなあ。
おかげで他の媒体では聞けない部分がいろいろ見えました。Zoomで全員がカメラ目線なのに耐えられないぼくですが、このチャットはほんと、「向き合わない感じ」なのがいいです。
なにしろ楽なのがいい(笑)。終わってコピペすれば素材原稿がそこにあるという。またやりましょう。機会を見つけて。
ありがとうございます。ぜひ。
ぜひぜひ。
今度はなにか理由をつけてセガを呼びましょう。
あやまらなきゃ。最後になにかギャグいっときますか?(乱暴な振り)
なるほどいっときましょう。
いくのか。
お題は……ここはやはりSNS医療のカタチの代表をことほぐべきかな。
よーしそれで! 渾身のやつを!!
(・ㅂ・ ) ←大塚
=O
(・ㅂ・)←大塚
=O
( ・ㅂ・)←大塚
=O
大 塚 の 前 を オ ー 通 過
ここにきてボスいじりとは。。。
( ‘-^ )b
ありがとうございましたーーー!!
そうなんだ。
それSHARPさんのだから。
ウッス。
ではいずれまたー。
ありがとうございました。
無事大団円を迎えた「犬と病理医」シリーズ。この続きがあるかどうかは分かりませんが、いつかどこかでこのスタイルの記事を見かけたら、「あー、あいつらまたやってるなー」と楽しんでやってください。それと、お付き合いいただいたゲストの皆さまに感謝を。それではまたどこかで! あと8月23日のオンラインイベントよろしくです!!
構成・見出し たられば