普段はTwitter上でああだこうだと小競り合いを繰り返している犬と病理医が、オンラインイベント『#SNSやさしい医療のカタチTV』のコンテンツや登壇者を紹介しつつ、わいわいがやがやとチャットで騒ぐ当コーナー、まずは小手調べを終えて、今回はゲストをお迎えしてしゃべります。
おいでいただいたのは、ご存じ小児アレルギー医にしてタイムラインの生き仏、ほむほむ先生(堀向健太医師)です。
現役の臨床小児科医であるほむほむ先生に、犬と病理医は何を聞くつもりなのか。今回も、居酒屋の隣のボックスに座っている気分でお聞きください。
参考:第1回 診察室を広げたい! 犬と病理医、小手調べ
snsiryounokatachi.hatenablog.com
■ほむほむ先生+SHARPさん+タニタさん、仕組んだのは?
あー、テストテスト。どうかな?
「あれは…虎か? 虎じゃね??」
「シカでした」
よしOK。
本日のお品書き(対談概要)です。
1)ほむほむ先生自己紹介
2)ほむほむ先生のご著書『子どものアトピー性皮膚炎のケア』(内外出版刊)について
3)「やさしい医療情報」とのかかわり
4)「お題」(公式アカウント勢との鼎談)を聴いてどう思ったか
5)シャープさんの印象とイベントで何を聴きたいか
6)タニタさんの印象とイベントで何を聴きたいか
7)コロナ禍でどう変わった?
どういうプロローグなんだ。
お、こんちは。 さあ今日は尊敬するほむほむ先生がゲストですよ。
ええ大変たのしみですね。
今回はこのコンテンツの紹介を兼ねるわけですが、そもそもこの座組(ほむほむ先生+SHARPさん+タニタさん)を決めたのは誰なんですか? きみ?
あ、これについては、ぼくです。
ナイスセレクトですね。どんな話になるかすごく興味がある。みんな「やわらかい」印象だし。
ええ、この鼎談すごく楽しみです。「やさしい医療の世界」にぴったり。
遅れました!
よろしくお願いします!
はい、では始めましょう。 あらためましてこんにちは、編集者のたらればです。
こんにちは、病理医ヤンデルです。
■「小児アレルギー医」って、小児科医? アレルギー医?
まずは「ほむほむ先生」の自己紹介からお願いいたします。
小児アレルギー科医ほむほむです。 大学病院の小児科で一般臨床医として働いています。 いくつか資格をもっているアレルギー屋です。 一般小児科医でも普通に働いているので、なんでも屋ですね。
これは機会があったら聴こうと思ったんですが、ほむほむ先生は「小児科医」であり「皮膚科医(アレルギー医?)」でもあるんですよね? わたしのような素人から見ると、医師の専門性ってちょっとわかりづらいんですけども、たとえば領域がふたつ以上にまたがる場合は、「どっちが先」とか「どっちが得意」とかあるものなんでしょうか?
なるほど、たしかにわかりにくいですよね。 『専門医』や『標榜医』というのがありまして、小児科の専門医は、小児を勉強する病院に所属して、何年間か勉強をして修練して、試験に通って取得するんですね。
でも、アレルギーの専門医はちょっと違うんです。
ほう。
ほうほう。
「2階建て」の制度になっているんです。
あー。2階建て。
え、どういうこと? 1階は?
いきなりアレルギー専門医はとれなくて、まず1階の小児科専門医を取得しないと、2階を積み上げられないんですね。 その1階にあたる専門医が、小児科専門医や、内科専門医、皮膚科専門医、眼科専門医、耳鼻咽喉科専門医とあるんです。
『FF』でいうとナイトからパラディンに進化するみたいなもんだ。
あーなるほど。「アレルギー専門医」という資格は、その前になんらかの専門性を獲得していないと取れない仕組みなんですね。
まさに! ですので、アレルギー専門医はルーツが様々なんですよね。 そういう背景があるので、アレルギー専門医の得意分野が偏る可能性はあるんですね。
そうか、1階はいろいろあるんだ。じゃあ魔法使いからも僧侶からも戦士からも賢者になれる、みたいなもんだ。FFじゃなくてドラクエだ。
そうそう(笑)
■「アレルギー」は出る場所によって専門家を配置
アレルギー専門医って、もともとは喘息を専門にしていた方がおおいんですよ。歴史的に。
そうか、「ぜんそく」。
小児アレルギーに関しては、喘息の治療が良くなってきて、専門性がやや薄れてきて、今度はアトピー性皮膚炎の波がきて、その後、食物アレルギーの波がきている感じです。
わたし自身は花粉症なんですけど、それがわかったのは、ある日、なにげなく背中を爪で掻いたら、赤い跡がばーっと付いて、それが消えなくなったんですね。で、あわてて皮膚科にいったら「これ花粉症ですよ。抗アレルギー薬を飲めば収まります」って言われて、まじかーー、となったんです。
たらればさんのご経験は、皮膚科という1階から、アレルギーの2階に上がった感じなんですね。
そうですね。 それが花粉症そのままかどうかはわかりませんが、花粉症のあるかたが、春先に顔の湿疹が悪化することは報告がありますね。
出た、「報告があります」! ああ安心するセリフだ。
花粉症ってどうしても鼻水とか涙とかくしゃみってイメージじゃないですか。でも症状の出る場所がぜんぜん違う。で、いまお話を伺って、そうか、医療の目的はあくまで「その人がちゃんと暮らせるようにする」だから、症状の場所に合わせた(つまり人間の機能に合わせた)専門家を配置するほうが、理にかなってるんだなと納得しました。
うんうんなるほど。 ぜんそくとアトピーと食物アレルギーって、よく考えたらそれぞれ違う知識が必要ですもんね。
そうなんですよね。 でも、『アレルギー専門医』だと、アレルギー全部が得意とおもわれがちなんですね。 どうしてもアレルギーの中でも知識の濃淡はあるのが難しいところで。 花粉にさらされると、アトピーが悪化するという報告はこちらです。
えっ、今このチャットの間に論文まで探せちゃうの……。
ちょ、ちょっと、チャット中に論文を、、。。
しかもその論文をご自身で解説されたブログ記事ですよ。すごいな、ご自身で活用してるんだ。しかもこんなに早く。
■巻末に「参考文献」をズラリと並べた狙い
ほむほむ先生は2020年4月に、漫画家の青鹿ユウ先生と共著で『子どものアトピー性皮膚炎のケア』という本を刊行されましたよね。この本も参考文献の数がすごい。
参考文献愛がすごい。
参考文献をたくさん入れ込んだんですが、参考文献を読んでほしいわけではないんですよね。これには理由があるんですね。
理由。ほうほうほう。
この本は、一般の方も、専門外の医療者も、専門医も、みんなが同じものを読めるようにという気持ちがあります。
みんなが。読者層をなるべく広く、ということですね。
病気があるときって、疲れておられる方が多いですよね。
ふむふむ
そうすると、文章を読んでいても目が滑るんです。 頭に入ってこないことが多いんじゃないかと思うんです。
たしかに。わたくしも寝不足だとゲラを読んでても途中ですべりまくります…。
ぼくもよくすべりまくります。。。
きみのすべりは別だろう。
ガルルルル(抗議
だから、まずはマンガではいってくるのは大事だと思うんです。
はい。
はい。
■マンガで間口を広くとったぶん、参考文献で奥行きを深く
ここからスモールステップで入られるといいんじゃないかと。 まあ1階というか、玄関ですね。 でも、これだけだと、医師は手にとっていただけないんです。
ははあ、1階以前に! 「病気の方は疲れているだろう」という部分で広く受け入れる。
青鹿ユウ先生のマンガは、切実さとやさしさと説得性のバランスがとても高いんですよね。
たしかに。
あ、そうか、マンガを入れて「入口」を広くとったぶん、この場合の出口、つまり専門性も深くしなきゃいけない、ということで、あの参考文献量なのですね!!
青鹿さんのすごいところは、マンガとして成立させながら(ここが大事)、情報をとりこぼさず、気持ちによりそうところですね。
つまり右に翼を大きく広げたぶん、左にも大きく広げないと、飛べないと。 (ドヤ顔の譬え)
おっ、かっこいいこと言ったね。
そのとおりで、専門性があることを指し示す必要性があるのです。
■まぎらわしい「商品名」と「療法」のちがい
そして、この本には、医学書にかいていないこと、でも外来で聞かれることをできるだけ盛り込みました。
おっ、その目論見をうかがうのははじめてですね。
参考文献をしつこく探したんですね。 「普段、学会であまりでてこないけど、外来で聞かれることのエビデンス」って聞きたくないでしょうか?
聞きたい聞きたい。現場で使える知識って教科書の範囲に収まらないですもんね。
「プロアクティブ」の話(前掲『子どものアトピー性皮膚炎のケア』p178~)とか、すごく視野、というか射程が広いなーと思いました。コマーシャルでよく耳にするんですよね。
あ、「プロアクティブ」のコマーシャルは、この本で説明している「プロアクティブ療法」とは違いますよ。
おっ…。
ちょっと! そういう話、聞かせてください!! めっちゃ同じだと思ってました!!
「プロアクティブ」のコマーシャルは、ニキビの治療薬の商品名。 (前掲書で紹介している)「プロアクティブ療法」は、抗炎症薬の「使い方」の話です。
まぎらわしいなあ。
知らなかった。。。いま慌ててご著書を読み返しましたが、たしかに「療法名である」と繰り返しご説明されていますね。そうかー、、こういうことがあるのか。。。
こないだ、後進の先生にその話をしたばかりなので、まぎらわしいことこのうえないですよね。 でも、最近は、(ニキビ治療薬のほうの)「プロアクティブ」の宣伝はすくなくなりましたよね。
そういえばあんまり見なくなった気が。
それは、ここ最近ニキビの治療がおおきくかわったからなんです。
えっ、いつのまに。
■医学と薬学の日進月歩がコマーシャルを変える
ぼくらの時代は「クレアラシル」だった気が。
ニキビの治療って、これまでは「抗菌薬」がおおかったんです。 (ちなみにクレアラシルのエビデンスは弱いです)
勉強になるなあ。。
それが、最近(といってもだいぶん前なんですが)、ニキビそのものを作らないようにする治療にかわってきているんですね。
おお、元から絶つ。
ニキビといえば、赤い腫れた炎症をおこしたにきびを思い浮かべますよね。 そのニキビを短期的に治療するのが抗菌薬。
なるほど。
「自分で潰しちゃだめ」と言われるんですが、潰したくなるんですよねえ。あれ。
でも、赤い炎症を起こす前の、「あかちゃんニキビ」があって、そこから治療する薬が保険でつかえるようになったんです。
おお、皆保険制度すばらしいなあ。
にきびになりかけ、ニキベイビー。
でも、その治療がずっと前から使えるようになっている英国でも、うまく使えていないという現状があります。
ま、また論文が出てきた。。。すごいな。。。
これチャットでやってるんだっていう衝撃をみんなにも味わってほしい。
なんかこう、お釈迦様の手の平で暴れてる猿の気分ですよね。
犬。
ワンワン!(抗議
そして、保険制度でいい治療ができるようになったので、プロアクティブの宣伝が減ったんです。
へぇー!
ただ、こういう話は、実は皮膚科専門医のほうが詳しいかもです。 ガイドラインが2016年に出ています。
(↓リンク先は日本皮膚科学会のPDFです)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/acne%20guideline.pdf
今度はガイドラインが出てきた。どういう頭してるんだ。耳が生えているようだが。
皮膚科学会のガイドラインは、かんたんにネットで全文みれるのが本当に凄いですよね。
それをささっと場合に応じて引き出せるのまさに「主治医」って感じですね。 やさしい医療の権化みたいな人だな。
たしかに。この人が近所にいたらうれしいなあ。。。
ああ、でもですね、こういう「理屈」は、必要に応じて、出会った患者さんに応じて考えないといけないと思っています。
しかもオーダーメードなわけだ。
■なぜ「やさしい医療情報」に取り組むことになった?
で、「やさしい医療情報とのかかわり」ですよ。ほむほむ先生はもともと、大塚篤司先生とは交流があったんですか?
大塚先生は、アトピー性皮膚炎の分野でも(がんの分野でも)有名なので、論文や学会講演で存じ上げていました。 でも、直接のつながりはまったくなかったんです。
あのブルーライト眼鏡先生、有名なのですか。
ブルーライト眼鏡先生、超有名ですね。
私も一応は、学会講演がそれなりにあるので、お互いに存在は認識はしていた…くらいです。
そして、どういうキッカケで知り合ったんですか? SNSで一本釣り?
ツイッターでつぶやいたとき、そのとき私はまだ匿名だったんですが、 大塚先生がコメントをくださったんですね。
ほほう。「誰だ貴様は」みたいな。「おぬし、ただものではないな」と。
そのとき大塚先生は実名で。
「誰だきさm……あっ名前出てる」と。
いやいや、そんな上からじゃないですって…笑
ラオウとサウザーが謙遜し合うような構図になってる。
■「せっかくなんで公開市民講座しませんか」
それで、ホンモノ? マジ? となったわけで。
「一緒になんかやりませんか?」と? 最初のイベントは東京でしたっけ? 京都?
えっとですね、そこは大塚先生らしいエピソードがありまして。 2018年の暮れに、私が大阪で学会があって。
ほうほう。なんか、新婚カップルに馴れ初めを聴くみたいな感じでいいねこれ。
それで、DMしたんですね。 「大阪に行くので、ご飯とかご一緒しませんか」って。
ナンパじゃん!!
(笑)
(すいません続けてください)
そうしたらですね。 「じゃあ、せっかくなんで公開市民講座しませんか」って。
せっかくなんで。
ナンパのノリで社会貢献。
なにがせっかくなのかわかんないですよね。 で、このあたりから「面倒くさいので、ツイッターで」って、DMじゃなくて普通の公開ツイッターでやりとりする、と決まっていったわけです。
悪い大人に捕まったと。
とにかくノリのいい二人だ。
いやいや、ここは大塚先生のいいところで、思い立ったら始める方なんですよ。 私はどちらかというとオールドタイプの慎重派なのですが、このときはあっさりと乗ったんですね。
今回も盛り上がりすぎて、本題に入れないまま6000字を突破した鼎談。右に左に脱線しながら、「後編」に続きます。なおこのときほむほむ先生がおっしゃった「オールドタイプの慎重派」というフレーズは、のちほどキーワードになってきます。はい。
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構成、見出し:たられば