SNS医療のカタチTVウラ話

犬と病理医の陽気なおしゃべり、そして大垣書店京都本店・医書ビブリオバトルを盛り上げるオンラインPOP対決!

第14回 真剣に話さなきゃいけないからこその祭(おーつか編・後編)

「やさしい医療情報」を立ち上げ、8月23日(日)に開催される「やさしい医療のカタチTV」(オンラインイベント)の責任者である大塚篤司医師をゲストにお招きしてお送りする「犬と病理医」、今回は後編です。

「医療者と非医療者の間に線を引きたくない」、「一緒にベンチに座って同じ方向を見ていたい」と語る大塚医師は、「一緒にやってくれる仲間」を探すときに「やさしい医師がいい」と選んだそうです。そんな大塚医師がまず実施したのが、大阪での一般市民講座。うまくいったのでしょうか…?

 

前回記事↓

第13回 犬と病理医と、ベンチで並んで座りたい仲間(おーつか編・前編) - SNS医療のカタチTVウラ話

 

■一人で講演したときの失敗

 

 

 

(ほむほむ先生たちを誘って実施した、大阪での一般市民講座の)最初の手ごたえはどんな感じだったんでしょうか?

 

思った以上に反応が良くて、ぼくらもびっくりしました。

 

実は昔、一人で一般公開講座をしたこともあるんです。 自前で会議場借りて、アトピー患者さん集めて。

 

おっ! そうだったんですか。すごいな。一貫している。

 

当時、脱ステロイドをやっていた患者さんたちにアトピーの講演をするという会ですね。

 

おひとりで。ふむふむ。

 

緊張した。

 

……そうかあ。

 

お医者さんにどちらかというと恨みを持っている人たちが集まった会だったので、すごく神経を使いました。

 

「脱ステロイド患者さんを集めて講演」というのは、おひとりで講演されたときですか? それともほむほむ先生をお呼びしたとき?

 

一人でやったときです

 

神経をつかった、というのはつまり、「敵対したくないから」ですよね。

 

そうです。

 

なるほどなー。

 

相手のことを知りたかったし、自分のことを知ってほしかったので。

 

ひとりでやったときに、なんとか成功したので、仲間を増やせばもっと成功する、とお考えになったということでしょうか?

 

ええとですね、自分としては「一人の会は失敗したな」と思いました。

 

そうかあ……。

 

 

■肩書を名乗ると線が引かれ、名乗らないと信用されない

 

 

な、、、なるほど。。。。それは、どんな失敗だったのでしょうか?

 

まずは、ぼくが匿名だったこと。

 

そっちを反省するんだ(笑)。

 

結構、大事なんです。

 

え、匿名ってどういうことでしょうか?? 「謎の皮膚科医ドクターX」みたいな肩書で登壇したんですか??

 

医学的な話をするときに、「ニセ医者」という反論は必ずきますから。

 

謎の皮膚科医。笑

 

こういう医者ですよと宣言すると「線を引いてしまい、壁ができあがる」けれど、自分を匿名化してもそれはそれでコミュニケーションができないのか。

 

そうかあ。。。。まあでもよく考えたら、わたしもだいたい登壇するとき「謎の編集者ドックX」というような肩書で喋っているわけだしなあ。。。

 

あともう一つの失敗は僕自身の心持ちにあります。

 

どんな心もちだったんでしょうか?

 

知って欲しい、知りたい、だけでは足りないのか。

 

振り返って考えてみると、目の前の人に声を届けようとせずに、会話を見てる人たちを意識してたというか

 

ううっ……。

 

おおお、すげえ、SHARPさん回で、あの人、「のれんを分けて入ってくる人と話す」みたいなことを仰っていたじゃないですか。いまそれとつながった感じが。

 

参考:(「ふだんはやっぱり、往来の人に向けてしゃべってる感じですよね。そして時おりのれんをかき分けて軒先に入って来る人と一対一でしゃべる。」) 

snsiryounokatachi.hatenablog.com

 

過去回とばんばん接続していくなあ。

 

「肩書」じゃダメで、「肩書だけ」でもダメで、肩書(キャラ)を背負って、そのうえで対話には、もう半歩踏み出すことが必要なんだなあ。。。

 

 

■目の前の相手に話しかけずに「お客さん」を意識してしまう

 

 

幡野さんがよくおっしゃってる「感動ポルノ」も同じだと思うんですけど。

 

感動ポルノ?

 

闘病した人のお話を感動ストーリーとして発信する形です。「感動ポルノ」であってる? ヤンデル先生。

 

あってますね。言いたいことはすごくわかります。

 

ん? 「言いたいことはわかるけど、同じ患者にしか届かない」という話でしょうか?

 

というよりも、「対話相手以外の不特定多数に、わかりやすいストーリーとして対話を消費させようとしてしまう、いやらしさ」というか……。

 

あーーーなるほどなあ。。。。伝わりやすさを意識してある種の類型に落とし込んで、結果としてステレオタイプになって、伝わってるんだけど響かない、ということかあ。

 

そうそう。

 

対話のためにキャラを纏うことは「コミュニケーションのための覚悟」としてすごく効果的だと思います。ただ、キャラを纏って舞台にあがったときに、いっしょに舞台に上がっている対話相手「ではない」人々のほうをちらちら見てしまうことがある。キャラを纏ったついでに、役者としての自分に酔い始めるというか……。

 

舞台上の役者が、第三者(観客)を意識した瞬間、観客がしらけるし、同じ舞台上の役者もしらける、ということか。おもしろいなあ。。。

 

話し相手が突然、「ここにこんな感動する話があります!」って自分のこと指差して言い始めたら嫌じゃないですか?

 

大塚先生がそういうことするタイプにはぜんぜん見えない。

 

まあ変なTシャツは着ますけどね。

 

あれね。

参考 (30分26秒近辺↓)

www.youtube.com

 

反省あっての今です。Tシャツ含む。

 

「まとうもの」には再考の余地があるぞ。

 

次は滑らない。

 

「次は滑らない」はぼくの10年来の座右の銘だ。

 

いいね。「禁煙なんて簡単だ。もう何回もやってる」みたいな。

 

チャーチルとよんでくれ。

 

 

■「自分が前に出なくてもいいのでは」という変化

 

 

ひとりでやった時と、ほむほむ先生たちとやったときで、最大の違いはなんでしょうか? 意識? 名乗り?

 

みんなでやると視点がひろがりますよね。

 

視点かーーー。

 

ぼくが気がついてないポイントを指摘してくれますので。みなさん。

 

君主感パネェな。

 

たしかに。ボス感。

 

それはさておき、そんな感じで1年半くらい「やさしい医療情報」をやってきたわけですが、ご自身や活動で、何か変わったと思いますか?

 

モチベーションが変わりました。

 

おっ、モチベーションが。まずは自分が変わったということですね。

 

お、かなり根本的。それはどういうふうに変わったのでしょう?

 

「裏方へ」という気持ちが強くなってきたましたね。

 

ウラにはぼくがいるからだめだよ。

 

こんなに出てるのに!笑

 

たしかにきみら出まくりだな。

 

やだよ、このソファはあげないよ。いごこちがいいんだ。

 

ドロンジョ一家みたいなことを言い出したな。。。

 

若い人たちにバトンタッチしていきたい。

 

「前に出て喋るのは自分ではなくてもいい」みたいな感じですか。

 

それはほんとそう。>若い人たちにバトンタッチ

 

なるほどなー。気持ちはわかるなーー。とはいえ、若い人は若い人で、思うところはあるだろうし。けいゆう先生は「まだ何も成し遂げていない自分が前に出るわけにはいかない」と言っていましたね。

 

参考:(中盤「若造が「色物」になってはいけない、将来に差し障るかもしれない、という恐れと常に戦っています。」)

snsiryounokatachi.hatenablog.com

 

 

そういう意味ではぼくの肩書は若い人たちをサポートするのに役立ってるかなと思ったりもします。

 

ここで肩書きの話に戻ってくるのは熱いなあ。

 

 

■仲間が増えると(負担が減るはずが)作業量も増える

 

 

大塚先生は、なぜそういうふうにモチベーションが変わったのでしょうか? 自分ですごく勉強になったから、若い人にも経験してほしいから、とか?

 

ぼくらは最前線でやるには、半歩感覚が古い気がしてるんです。

 

ほう……。

 

うーーむ、なるほど、それもわかる気がする。。

 

若い世代もわかる旧世代なんですよね

 

この1年半の、「やさしい医療情報」全体の変化はどうでしょうか? もろもろと一緒にやる人は増えている気がしますけれども。

 

 

たらればさん含め、素晴らしい方たちとの出会いがたくさんあって、急激に大幅に色んな仕事が増えました。笑

 

かわいそうw

 

仕事が増えた。そ、そうかあ、、わかるなあ、、、一般的に、仲間が増えるとそれぞれの負担していた作業量は減るはず…と期待するんですけど(というかそのために仲間を増やしたりするんですけど)、だいたいの場合、「こんなはずでは」と思いつつ、仲間が増えるとそれぞれの作業量は増えるんですよね。。。。

 

それでも、面白がってくれる方たちも増えてくれたのですごく感謝してます。

 

集合写真のイメージでいうとさあ、人数が増えると、みんながみんなカメラのほうを「まったく同じように」向かなくても、楽しそうにしてればなんかいい写真になるんですよね。

 

ああ、ほんとだ。

 

あーいいね、たしかに。無理に笑う必要もないんだけど、楽しそうにするの大事だなあ。

 

患者と医者がふたりだけだと、並んで座って月とか夜景とか見ない限りはなかなか同じ方向を見られないけれど……人数が多くなると、多少のずれも交差も、楽しさで包含できるようになるんだよ。そしてやさしくまとまりやすくなる。

 

で、引率の先生の仕事は激増するんだ。

 

医療の話は特に、キツかったりしんどい話が多いですしね。

 

そうですそうです。

 

真剣に話さなきゃいけないことが多すぎるので、出来る限り楽しくしたいんです。

 

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(画像:Adobe stock)

 

あとさ、出版社が「本」を出すときって、社内で誰かひとりでも「これやりたいんです! 絶対やったほうがいいです!」と言う人がいないと、成立しないんですよね。

 

なるほど

 

いい話だ。 リードするんだね。リーダーが。

 

そうそう。誰かが「自分が責任とります。やりましょうこれ!」と言わないと、それがどれほど「やれば儲かるんだよね」とか「世の中にいい影響があるんだよな」とわかってる本でも、成立しない。 たいていそれは担当編集者なんだけど、そうじゃない場合もある。で、その人が社内を説得して回るわけです。熱を伝播する、という表現がわかりやすいんですけれども。

 

熱を伝播する仕事。

 

そういうことを大塚先生はやられているわけですね。

 

若い人の感覚も、ちょっと古い人の感覚もわかる場所でね。

 

もうさ、最終的には「こいつがそこまで言うならやるか」というところで折り合いをつける。

 

うちらの活動そんな感じ? ヤンデル先生

 

言語化してもらうとおもしろいですね。……や、もっと楽しそうかもしれないよ。

 

 

■一年に一度のお祭りにしたい

 

 

8月23日(日)のイベントの話もちょっとしといたほうがいいかな。オンラインイベントである「やさしい医療のカタチTV」、狙いとか魅力を大塚先生、お願いします。

 

ええとですね、これはお祭りです。

 

ワッショイ!

 

ワショーイ!!

 

一年に一回の医療系のお祭り。

 

い、一年に一回……?

 

そう、毎年やるよ。

 

あ、なるほど、「このイベントで強烈にこれを伝えたい、伝えなきゃ」ということよりもむしろ、普段やってることの「ハレの場」みたいなイメージなのですね。

 

(ご参加いただいた皆さんに)楽しかった、と思ってもらいたいです。

 

医療について真剣に考える場面って、生活の中ではつらいときばかりじゃないですか。

 

₍₍⁽⁽(ી( ・◡・ )ʃ)₎₎⁾⁾

 

₍₍⁽⁽(ી( ・◡・ )ʃ)₎₎⁾⁾₍₍⁽⁽(ી( ・◡・ )ʃ)₎₎⁾⁾

 

それは写真の撮り甲斐があるなあ。

 

きみカメラマン気分だけど登壇者だからな。つうか主催者側か。

 

えっ。

 

えぅ。

 

わぅわぅ。

 

おふたりとも登壇者ですから

 

わぅぅ。。

 

そうだぞ。

 

いやわたしはきみに呼ばれたんだが。。。

 

 

■医療の話が突然人類レベルで「自分事」になった

 

 

最後のお題です。このコロナ禍で、大塚先生の現場や、医療全体、医療情報について、何か変わったこと、目立って変化はありましたか?

 

毎週のように意識が変わってました。ぼくも、みなさんもだと思いますが。

 

うんうん。

 

意識というのは、何に対しての、でしょう? あの感染症に対して? それとも医療情報全体?

 

たとえば、ステロイドをめぐる誤解や対立って、もっと長い時間をかけて変化してきたんです。

 

ほほう。いきなり深い。

 

「ステロイドはよく効く」、という話から「怖い」っていうことになって、「ちゃんと使おうね」という流れになるのに20年以上かかってますが、コロナはそれが一気に数週間でおきた。

 

なるほどなーーー。。。危機感がアクセルを踏んだんですかね。いろんな方向に。

 

これまでは、ステロイドもHPVワクチンも本当の当事者は一部だったんだと思うんです。がんの民間療法もそうかな

 

そうですね。どこか対岸の火事なイメージが、大半だったと思います。

 

それが今回はじめて全員が当事者になったから、規模も議論も勢いが違いました。

 

自分事ではなかった。

 

そうです。

 

それは、当事者(医療者)としては、ちょっとおっかない現象ですね。。。。

 

全員が当事者になる感覚って、「戦争」「震災」ではさんざん語られてきましたけど、「現代医療」では地味にはじめてなんですよね。

 

われわれ医者も現場で感染するかもしれないなかで情報発信していくって、思った以上にメンタル削られましたね

 

「病気」って、これまではわりとパーソナルな問題だったわけですが(それぞれの医療者や患者にとってはそうではなかったでしょうけれども)、それが今回の感染症では、人類レベルで「自分事」となったということかあ。。。

 

( ・◡・ ) ←削られました

 

生やせ。手を。

 

( ・◡・ )◟

 

ちっさ。

 

いろんな人が変わってしまったと感じたり、それは自分が変わったからかもしれないし、でも変わらない人もいましたね

 

◞( ・◡・ )◟

 

 

■「わたしのことは嫌いになっても…」

 

 

大塚先生ご自身はどうですか? かなり変わられましたか? あんまり変わってないように見えますけれど。

 

自分の弱い部分は出たと思いますよ。

 

人間味あるなあ。

 

そうなんですか? たとえばどんな? イライラしたりしたんですか?

 

これまでと同じ距離感でSNSできなかったですもん。不安だったんでしょうね。

 

( ・◡・ )     ( ・◡・ )
S N S   D i s t a n c i n g

 

これまたSHARPさん回を引いちゃうんだけど、「のれんの向こうに国民が押し寄せたとき」の緊張、に近いんでしょうね。。。

 

そうですそうです。これまでの医療情報発信とは明らかに規模が違いすぎて。

 

最後の最後に、8月のイベントに向けて、視聴者に伝えたいことがあればぜひ。

 

私のことは嫌いになっても、私のTシャツのことは嫌いにならないでください! 以上です!

 

えぅ。

 

わぅわぅ。

 

あ、まじめに締めたほうがいい感じでした?

 

本日のゲストは「やさしい医療情報」のリーダー、大塚先生でしたーーー。ありがとうございましたーーー!

 

最初からチャットやり直しますか?

 

( ‘-^ )b

 

( ‘-^ )b

 

最初からやりなおしましょーよー。

 

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(画像:Adobe stock) 

 

 「やさしい医療情報」って、医療者と非医療者のコミュニケーションロスの話だと思っていたのですが、そのキッカケが「会えなかった患者さん」だったということ(前編収録)、そして「(しんどい話だからこそ)楽しくやりたい」という性格付けに関しては、言い出しっぺでありリーダーである大塚先生の性格が反映しているんだなあ…と実感しました(あと再集録はしません)。さてここまで14回、6組のゲストをお招きしてお送りした「犬と病理医」シリーズですが、ぼちぼち終盤となってまいりました。次回は「振り返り」をお届けします。

 

構成・見出し たられば

 

 

 

 

追記:

 

前編でおーつか先生が言っていた「きっかけ」のツイート、おーつか先生のフォロワーさんが教えてくださいました。

 

 

2020年8月23日オンラインイベント #SNS医療のカタチTV (やさしい医療の世界) /© 2020 SNS医療のカタチ/背景画像 Adobe Stock/Happy monkey